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粉雪が舞う、冬の寒い日。ある繁華街に、一人のあわれな少女がいた。穴だらけのコートに身を包み、汚れた靴を履いている。その手には、マッチ箱のたくさん入った手提げカバンがあった。
少女はそこからマッチ箱をとりだし、呼びかける。
「マッチ、マッチはいりませんか?」
かぼそい声は人々に届いていないのか、あるいは相手にされていないのか。ともかく、だれも立ちどまる気配はなかった。
しかし、これは無理もない。ライターがある今の時代、マッチを買う人はほとんどいない。それに、もしマッチが欲しいのなら、飲食店などに行けばいいのだ。タダで手に入る。
やっぱりマッチなんて売れないのかな。少女は溜息をつき、遠くに見える、ある店を見た。ショーウインドーに巨大なクマのぬいぐるみが飾られている。足もとには、少女にとって驚くべき値段が貼られてあった。
「あー、欲しいなー」
思わず声がでてしまう。彼女は、クマのぬいぐるみが欲しくて仕方なかった。だが家にそんな余裕はなく、アルバイトをするにもまだ十歳、だれも雇ってくれない。そこで、こうしてマッチを売っていた。
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