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「じゃあ、あなたはまだ生きているとでも?」
「未練があるからのう。まだ死ねんよ」
「未練?」
「ああ。未練、じゃよ」
妙に『未練』という言葉を強調したあと、幽霊は火の玉へと戻り、闇に消えてしまった。
草介は混乱した。しかし、なんとか整理しようとする。
つまり、幽霊は自分自身を死んだ、と思っていない。そして自らが存在するのは、未練があるから、か。彼はひたいに手を当てた。やはり人知を超えた世界だ。理解できそうにない。
すっかり疲れはてた彼は、そのご、自宅へと戻った。それからすぐにベッドに身を任せた。
3
窓から朝日が差しこみ、草介は目を覚ました。
結局、死ぬときの感じはわからなかったなあ。平坂にどう説明してやろうか。やっぱり適当にごまかしておくか。それが一番いい方法だ、と彼は思った。
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