ささやかなこの気持ちを

11/14
前へ
/428ページ
次へ
 いつものように支度をしようとし、時計をふと見た。午前八時半。朝礼がはじまるのは、午前八時五十分。 「遅刻だ!」  彼は叫んだ。髪もととのえず、服だけ着替え、家を飛びだす。自転車を必死で走らせる。まにあった。ギリギリセーフ。  草介は職員室に荷物を置き、急いで教室へ向かう。 「佐山先生」  校長が呼びとめた。しかし聞こえないフリをした。急がなければならない。かまっている暇はないのだ。  二年二組の教室の戸を勢いよく開けた。 「すまない、みんな。さあ、席に着いて」  こう言いながら、草介は教壇に向かう。だが、不思議な感じがし、足をとめる。  やけに静かだった。それも不気味なくらいに。いつもなら生徒たちが談笑などをしているはずなのだが。  草介は教室内を見まわした。生徒たちが一箇所に集まっている。その場所は窓際の一番うしろ。里実の席だった。  なにかあったのか? 草介はおそるおそる近づいた。
/428ページ

最初のコメントを投稿しよう!

421人が本棚に入れています
本棚に追加