闇と光6

2/2
前へ
/2ページ
次へ
廃墟と化した第4都市で、闇夜は窮地にみまわれていた。 油断した── 背後の奴(女?)は片手で短剣を俺の首元に突きつけたまま、もう片方の手で俺の衣服をまさぐっている。 腰に下げた小袋に乱暴に手を突っ込まれ、硬貨や道具が地面にぶちまけられた。 「ない…何で持ってないのよ…!!」 女の声色から焦りがうかがえた。 こいつ…何か探しているのか? 冷静になってくると、女の呼吸が酷く乱れている事に気付く。 そういや、首に触れてる腕がすげえ熱い── 闇夜の、背後の女に対する警戒心が薄れてきた時。 女の手から短剣が離れ、闇夜の足元に落ちてカランっと乾いた音を立てた。 同時に、闇夜の首に巻き付いていた腕が力なくほどける。 ──! 闇夜は反射的に身体の向きを変え、目の前で崩れ落ちようとする女を支えていた。 闇夜の腕にふわりと寄りかかったのは、純白のローブを纏った華奢な魔導師だった。 他にも生き残った者が潜んでいる可能性がある。 外にいるのは危険だと考えた闇夜は、魔導師を抱えて近くにあった建物の中に運び、床に寝かせた。 横たわる魔導師は純白のローブに劣らないほど肌が白く、ウェーブのかかった薄茶色の髪は腰まである。 この魔導師が光属性であることは明らかだった。 闇属性の者は、黒以外の物を身に付けることを許されないからだ。 歳は闇夜と同じぐらいだろうか。幼さの残る顔を歪め、苦しそうにうなされている。 ローブの右足の辺りが赤黒く滲んでいた。 闇夜がローブをめくってみると、ふくらはぎの皮膚が大きく裂けて化膿していた。 「この傷から感染症にかかったのか……」 おそらくは、この魔導師が欲しがっていたのは薬草。 だが、あいにく闇夜は薬草を持っていなかった。持つ必要がないからだ。 この魔導師は、放っておけば数日間苦しみ続けた後、命を落とすだろう。 闇夜の脳裏に先ほどの惨劇がよぎった。 敵とはいえ、救える命が目の前にある── 「……助けてやるか……」 闇夜は自分の腕の袖をまくり、鞘から抜いた暗黒剣をすぅっと腕に這わせた。 そして赤い筋から滴る鮮血を魔導師の口の中に落とす。 「んん…」 魔導師の喉がコクッと鳴ると、ほどなく純白のローブが漆黒に変わった。 「勝手に属性を変えちまったけど……死ぬよりはましだろ」 今から闇夜が行う術は、闇属性の者しか癒せないのだ。 闇夜はゆっくりと暗黒剣を構え、呪文を唱え始めた……
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加