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廃墟と化した第4都市で、闇夜は窮地にみまわれていた。
油断した──
背後の奴(女?)は片手で短剣を俺の首元に突きつけたまま、もう片方の手で俺の衣服をまさぐっている。
腰に下げた小袋に乱暴に手を突っ込まれ、硬貨や道具が地面にぶちまけられた。
「ない…何で持ってないのよ…!!」
女の声色から焦りがうかがえた。
こいつ…何か探しているのか?
冷静になってくると、女の呼吸が酷く乱れている事に気付く。
そういや、首に触れてる腕がすげえ熱い──
闇夜の、背後の女に対する警戒心が薄れてきた時。
女の手から短剣が離れ、闇夜の足元に落ちてカランっと乾いた音を立てた。
同時に、闇夜の首に巻き付いていた腕が力なくほどける。
──!
闇夜は反射的に身体の向きを変え、目の前で崩れ落ちようとする女を支えていた。
闇夜の腕にふわりと寄りかかったのは、純白のローブを纏った華奢な魔導師だった。
他にも生き残った者が潜んでいる可能性がある。
外にいるのは危険だと考えた闇夜は、魔導師を抱えて近くにあった建物の中に運び、床に寝かせた。
横たわる魔導師は純白のローブに劣らないほど肌が白く、ウェーブのかかった薄茶色の髪は腰まである。
この魔導師が光属性であることは明らかだった。
闇属性の者は、黒以外の物を身に付けることを許されないからだ。
歳は闇夜と同じぐらいだろうか。幼さの残る顔を歪め、苦しそうにうなされている。
ローブの右足の辺りが赤黒く滲んでいた。
闇夜がローブをめくってみると、ふくらはぎの皮膚が大きく裂けて化膿していた。
「この傷から感染症にかかったのか……」
おそらくは、この魔導師が欲しがっていたのは薬草。
だが、あいにく闇夜は薬草を持っていなかった。持つ必要がないからだ。
この魔導師は、放っておけば数日間苦しみ続けた後、命を落とすだろう。
闇夜の脳裏に先ほどの惨劇がよぎった。
敵とはいえ、救える命が目の前にある──
「……助けてやるか……」
闇夜は自分の腕の袖をまくり、鞘から抜いた暗黒剣をすぅっと腕に這わせた。
そして赤い筋から滴る鮮血を魔導師の口の中に落とす。
「んん…」
魔導師の喉がコクッと鳴ると、ほどなく純白のローブが漆黒に変わった。
「勝手に属性を変えちまったけど……死ぬよりはましだろ」
今から闇夜が行う術は、闇属性の者しか癒せないのだ。
闇夜はゆっくりと暗黒剣を構え、呪文を唱え始めた……
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