little 1

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物音は風呂場から聞こえたようで、ハルは急いで扉を開けた。 「おいっ!お袋?!」 扉の向こうには、力なさげに微笑む自分の母親。 「どうしたんだよ!?」 ハルは母親を抱え起こすと、リビングまでひきづりながら連れて行き、椅子に座らせた。 「また…振られちゃった…。」 「あぁ?」 コップに水を入れ、ハルは不機嫌そうに差し出した。 「…ありがと。ハルはいい男だねー。」 茶髪に、潤いは一切なしの髪。 皺やシミの目立つ肌。 腕はか細く… ハルは水を取るため差し出された、細い腕を掴んだ。 「なんだよっ…これっ」 水が床にこぼれ落ちる。 ハルが掴んだ腕には、青く変色した皮膚。 紛れもなく、注射の後。 それも何度も。 何度も… 「…やめたんじゃ…なかったのかよっ!」 ハルは壁にコップを叩きつけ、その砕けたガラスが床に散らばった。 「…これはっ…やめようと思ったのよ?…一回だけ…一回だけと思ったんだけど…」 「…ざけんなっ」 立ち去ろうとするハルの腕を取って、 「どこに行くの!?」 ハルは自分の腕にすがる母親を見下ろして、 静かに息を吐き出した。 「…なんで、俺の母親はてめぇなんだよっ」 そう吐き捨てると、母親の手を振り払いバタバタと部屋から出て行った。
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