little 1

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ロビーの端で、紗奈が龍之介に謝る姿が目に入った。 ハルが思わずフッと笑うと、 「…なんで私じゃないの…?」 「…え?」 ハルは、自分の隣に座るイチカの顔を覗き込んだ。 診察時間が過ぎたロビーは薄暗く、時々入院患者が通り過ぎて行くだけだった。 「…私は頼りない?」 「そうゆう訳じゃ…」 「じゃあ、どうゆう訳!?」 零れる涙が、イチカのスカートにシミを作っていく。 「…お母さんが倒れたのに…ここに一緒にいるのか、どうして私じゃなくて紗奈なの?」 「それは偶然…」 「いっつもそうっ… ハルが大変な時…切ない時…そばにいるのは私じゃない。」 ハルは頭をかいて、溜め息を漏らした。 「…面倒くさい…?」 「…え?」 イチカは短く息を吐き出し、 「…分かった。」 立ち上がると、ハルを振り返った。 涙が溜まった目のまま 「…もぅ行くね…。」 黙ったまま、何も言わずにイチカを見上げるハルに、 「…何も…言わないの?」 「…何も…言うことはない…。」 バチンッ! イチカの平手打ちがハルの頬に炸裂し、 「…もぅ…いいっ…。」 駆け出すイチカの背中が泣いていた。 うつむくハルは、目を閉じたまま唇を噛んだ。 ごめん…イチカ… ごめん… …ごめん…
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