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夜の住宅街。
ひたすらに走る俺と、それを追う緑色の怪物。
凶悪な筋肉と骨の剥き出したような体躯、対する俺の貧弱な身体は、なんとも頼りない黒タイツに包まれている。
絶対絶命。
きっと誰もがそう思う。
だが、俺は違う。
化物との距離が詰まるにつれ、胸の拍動がいきり立つのが分かる。
俺が追い詰められているからではない。もうすぐ戦いが始まるから。
そうだ。
どんなに凶悪な敵であろうと、俺には出来るのだ。
倒せる。
勝てる。
戦え。
殺せ!
化物が後頭部を掴むのに動きを合わせ、俺は渾身のボディを打ち込んだ。
右の下腹部にめり込む腕が、腹部表面を覆う何かを砕き、それを奴の内蔵に突き立てる。
苦しみに歪んだ奴の表情に、闘志の爆発を体感する。
「おらぁっ!」
間髪入れることなく、腹を抱える化物の顔にラッシュをかける。
右、
左、
右、
右、
左
一撃入れるごとに感情が解放される。
一撃入れるごとに愉悦が精神を満たしていく。
戦っているということ。
相手を倒すということ。
それは生きているということ。
ラッシュを止めたとき、目の前の化物は完全に戦意を失っていた。
腕をダラリとさげ、いたるところから骨の飛び出した顔は血にまみれている。
俺は体を深く捻り、最後の一撃の準備を始めた。
化物は懇願するかのようにモゴモゴと何かを伝えようとする。
化物「…ヌ…ヌェギ…らけ…れ…」
俺「何言ってるかわかんねぇ。」
俺はその言葉を無視し、体をギリギリまで捻りあげる。勝利という結果ではなく、敵を打ち砕くことへの興奮が止まらない。
俺「しねぇ!!」
俺の拳は奴の顔を突き抜けて、そのまま俺の微睡みを打ち砕き、意識を覚醒させ――――
俺を目覚めさせた。
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