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弾ける水音と共に、声が聞こえた。
「……しっかりしろ」
逸斗の視線の先には、両手で頬を叩く流風の姿。
「忘れないけど…… いつまでもこんなんじゃ
ダメだよ」
大きな独り言を吐き出しながら、彼女は冷たい水で何度も顔を洗っていた。
「あんなにはっきり、傀藤くんの幻を見る
なんて……」
自分を見て逃げ出した訳ではなかった──
逸斗は自身の胸許を鷲づかみ、口唇を震わせる。
今更ながら、彼女につけた傷の深さを、そして自分に対する愛の深さを思い知る逸斗。
「……幻と、ちゃうで」
もう、何がどうだっていい──駆け寄り、逸斗は流風の躰を強い力で抱きしめた。
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