蒼 始 -アオノハジマリ-

7/11
前へ
/731ページ
次へ
  夢、 勝敗、 好敵手、 甲子園―― それらを……野球のルールすらまともに知らなかったあの頃の方が、彼にとっては幸せだったのかもしれない。 歩むその道は、小石のひとつさえ落ちていない、平穏でなだらかなものだった。 彼も、親友の楠本も、躓く事なく歩を進める。 拙い字で大きく名前を書いた大切なグラブ、更に汚れた白球。 ふたりが空間を共有するキャッチボールは、時が経つのも忘れるほど楽しいものだった。 「……クス」 「んー?」 「……楽しいけど、なんかもの足りひんなぁ……」 「ん…… ハヤトもそう思てたんやなぁ……」 だが―― 互いの呼び名にも成長が見られた頃、ふたりは気づいてしまった。 野球は、ふたりでやるものではないという事に。  
/731ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1671人が本棚に入れています
本棚に追加