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夢、
勝敗、
好敵手、
甲子園――
それらを……野球のルールすらまともに知らなかったあの頃の方が、彼にとっては幸せだったのかもしれない。
歩むその道は、小石のひとつさえ落ちていない、平穏でなだらかなものだった。
彼も、親友の楠本も、躓く事なく歩を進める。
拙い字で大きく名前を書いた大切なグラブ、更に汚れた白球。
ふたりが空間を共有するキャッチボールは、時が経つのも忘れるほど楽しいものだった。
「……クス」
「んー?」
「……楽しいけど、なんかもの足りひんなぁ……」
「ん…… ハヤトもそう思てたんやなぁ……」
だが――
互いの呼び名にも成長が見られた頃、ふたりは気づいてしまった。
野球は、ふたりでやるものではないという事に。
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