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最初は驚きと戸惑いが入り雑じった表情を浮かべていた女子選手だったが、小さな手で受け取った金メダルをみつめるうち、その頬に笑みが宿る。
今なら、もう一歩踏み込めると感じた逸斗は、
「おまえの銀メダル、貸して」
そう云って左手を揺らした。
「おまえ、ストレートとカーブしか投げられ
へんの?」
受け取った銀メダルを太陽にかざしながら、逸斗は女子選手にそんな質問を投げる。
女子選手は金メダルに注いでいた視線を逸斗に移した。
「うん……」
「なんで?」
逸斗が弱々しい返事に突っ込むと、女子選手は少し頬を膨らませながら応えた。
「女の子なんだから、それで充分だって監督が……」
本当は不本意なのだと、噛みしめた口唇が物語っていた。
「あっほくさ。 そない“じだいさくご”なこと
云うてるから勝たれへんねや。 まあ、相手が
オレらのチームやったってとこで、勝負は
見えとったけどな」
重くなりかけた空気を浄化させたい――逸斗の精一杯の冗談だった。
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