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「オレの手をボールや思て握ってみ」
逸斗は右の拳を突き出し、左手で女子選手の利き腕を取る。
触れた小さな手が、かすかな震えと熱を帯びる様が逸斗の掌から伝わった。
「ここを縫い目に引っかけて、余った指は軽く
添える」
急に照れ臭さが感情を支配したが、逸斗はそれを悟られないよう女子選手の左手を導く。
こんな経験ははじめてなのだろう。
女子選手は耳まで真っ赤に染め、居心地が悪そうに逸斗の拳を握っていた。
「握りを憶えたら、あとは練習あるのみや」
白球に見立てた自分の右手を握る女子選手の利き手は、野球人である逸斗を大いに刺激した。
小さな手。
だが、どこか頼りないその手、掌は、女子選手の努力を主張していた。
「あ…… ありがとう……」
謝辞を述べる女子選手。
繋がるこの手を離すのは惜しいと、逸斗が拳に力を籠めた時だった。
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