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「こんなところにいたのかぁー、蒼真ぁー」
おそらく女子選手を探し回っていたであろう暑苦しい男性が、遠くから走って来る姿が見えた。
それは、お伽話で魔法が解ける瞬間に鳴り響く無情な鐘のように……ふたりの手を分かつ。
「あれが“さくご君”か?」
名残惜しく感じる自分の幼さを隠すよう、逸斗は茶目っ気たっぷりの表情で冗談を飛ばした。
「ホントによかったの? 大切なものもらって……」
揺らめく陽炎、別れ際そう訊ねる女子選手に、逸斗は得意満面の笑みを向ける。
そして――
「オレ、スライダー極めよ思てんねん」
堂々と宣言してみせた。
「すらいだぁ……?」
「これはやらへんで? おまえも欲しがんなや?」
首を傾げる女子選手に自身の決意を告げると、彼女は無言で頷く。
まだ、話し足りない……
「蒼真ぁー! 集合時間はとっくにすぎてるぞぉー」
そんなふたりの未練を断ち切るように、濁声が響いた。
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