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「……あれ、ハヤト、そのメダルどないしたん?」
帰りのバスの中。
楠本はひとりにやけながら銀メダルをみつめる逸斗に気づき、声をかける。
優勝し、華々しい金メダルを手にしたはずなのに……
訝(イブカ)る楠本の疑問は、すぐに解かれた。
「シルバーやで? おまえらのメダルよりカッコ
ええやろ」
「んー? そうかぁ……?」
「これ、交換してん」
逸斗は、おまえだけに教えてやると前置きをし、楠本にそっと耳打ちをした。
この銀メダルは、決勝を闘った相手チームの女子選手との約束の証――
次に対戦する時に持ち主の許へ返すのだと、逸斗は純粋な瞳で語っていた。
「今度対戦する時、あいつはええ投手になってる
やろな」
悦に入った様子で再び銀メダルに見入る逸斗。
どうやら、本当にその約束が果たされる日が来ると信じているらしい。
楠本は思った。
軽はずみな約束を交わした逸斗は無責任だが、そんな彼の純真さが自分を虜(トリコ)にするのだろう……と。
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