謳 歌 -コウフクカン-

2/12
前へ
/731ページ
次へ
  「……あれ、ハヤト、そのメダルどないしたん?」 帰りのバスの中。 楠本はひとりにやけながら銀メダルをみつめる逸斗に気づき、声をかける。 優勝し、華々しい金メダルを手にしたはずなのに…… 訝(イブカ)る楠本の疑問は、すぐに解かれた。 「シルバーやで? おまえらのメダルよりカッコ  ええやろ」 「んー? そうかぁ……?」 「これ、交換してん」 逸斗は、おまえだけに教えてやると前置きをし、楠本にそっと耳打ちをした。 この銀メダルは、決勝を闘った相手チームの女子選手との約束の証―― 次に対戦する時に持ち主の許へ返すのだと、逸斗は純粋な瞳で語っていた。 「今度対戦する時、あいつはええ投手になってる  やろな」 悦に入った様子で再び銀メダルに見入る逸斗。 どうやら、本当にその約束が果たされる日が来ると信じているらしい。 楠本は思った。 軽はずみな約束を交わした逸斗は無責任だが、そんな彼の純真さが自分を虜(トリコ)にするのだろう……と。  
/731ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1671人が本棚に入れています
本棚に追加