謳 歌 -コウフクカン-

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  「――クス…… オレ、“平晏高校”行こ、思てんねん」 優勝の余韻を持たない逸斗は、その帰り道、楠本にそう打ち明けた。 「――もう、決めたん?」 逸斗の心に充実感がないのは、楠本も気づいていた。 親友の突然の打ち明け話―― 傾ける楠本の耳に、秋の気配がざわついた。 「ん…… あとは親を説得するだけや。 私学やけん、  半端な気もちでは行かれへんやろ?  うちはおまえんちみたいに金持ちやないし」 楠本にかかる負担を少しでも軽減させようと、逸斗は冗談雑じりに告げる。 「返事に困ることさらりと云うなや」 楠本は楠本で、完成度の低い冗談を返した。  
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