謳 歌 -コウフクカン-

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  楠本に自身の決意を告げた日、逸斗は両親にも進学についての考えを話した。 貧乏という訳ではないが、決して裕福とは云えない逸斗の家庭。 それでも、当然ながら息子の才能を活かせる野球の名門校へ進学させてやりたい思いは両親も持っているが、特待生制度がない平晏高校への進学となると二の足を踏んでしまう。 明確にではないが、他府県の高校から入学金や学費その他の免除の制度があるから是非息子さんを進学させて欲しいと話を持ちかけられているのも理由のひとつ。 野球の名門校という観点から云うと、声をかけてくれた高校も決して平晏に引けを取らない。 その中でも、大阪の高校は甲子園常連校――平晏より、甲子園に近い高校と云える。 両親はその高校への進学を逸斗に望んだが、彼が意思を曲げる事はなかった。 「オレ、どうしても行きたいねん。 平晏に」 真一文字に結んだ形のよい口唇を開き、逸斗は語る。  
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