蒼 始 -アオノハジマリ-

4/11
前へ
/731ページ
次へ
  幼い逸斗が野球に魅せられるのに、そう時間はかからなかった。 拾った白球を自宅の塀にぶつけるところから始まり、時に立入禁止の私有地へと場所を変え、逸斗は夢中で左腕を振った。 ただ、ひたすら投げる。 投げて、投げて、投げて。 まだ柔らかいその掌にできた肉刺(マメ)を、逸斗は何も知らない赤子である弟の眼前にかざした。 そして、言葉にならない音を発する弟に向け、云い放つ。 「おもろいねんで、やきゅう。 せやから、  母ちゃんはおまえにやるわ」 その台詞の意味など判らないであろう弟、遼介は、丸い頬を揺らして笑った。  
/731ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1671人が本棚に入れています
本棚に追加