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幼い逸斗が野球に魅せられるのに、そう時間はかからなかった。
拾った白球を自宅の塀にぶつけるところから始まり、時に立入禁止の私有地へと場所を変え、逸斗は夢中で左腕を振った。
ただ、ひたすら投げる。
投げて、投げて、投げて。
まだ柔らかいその掌にできた肉刺(マメ)を、逸斗は何も知らない赤子である弟の眼前にかざした。
そして、言葉にならない音を発する弟に向け、云い放つ。
「おもろいねんで、やきゅう。 せやから、
母ちゃんはおまえにやるわ」
その台詞の意味など判らないであろう弟、遼介は、丸い頬を揺らして笑った。
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