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誰かに、呼ばれた気がした。
『ルカ──』
確かにそう──
ノックの手を止め、周囲を見渡す流風。
揺らしたその目が、愛しい面影を映す。
時間が経ってもまだ、こんな幻を見るなんて……
「……ごめん、顔、洗ってくる」
練習に集中できないのは監督失格だ。
云い残し、流風はグラウンドから走り去った。
──自分を見て、逃げ出したのだと思った。
確かに目が合ったから。
逸斗は激しく動揺する。
だが、彼女がずっとそうしてくれていたように……今度は自分が彼女を追いかける番だ。
駆け出す逸斗にはもう、微塵の迷いもなかった。
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