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「いや。全然」
即答。
でもなければ、誘ったりなんかしないか。
では、お言葉に甘えまして、
「失礼します」
彼が開けてくれたスペースに、体を入れる。
「それじゃ、行こうか」
言葉と共に、歩き始める。
――それから。
私も彼も口を開かない。
傘が雨粒を弾く音をBGMにして、ひたすら足を進める。
数分かして、私の家まで二百メートルほど。
ふと、横を歩く彼を眺めてみる。
私より十センチは高い身長。
顔はやっぱり平凡だけど、男の子だからか肩幅がある。
その右肩が、濡れていた。
疑問に思い、自分の左肩に、さりげなく手をやる。
雨に濡れたような感触は、なかった。
流し目で、もう一度彼の肩を見る。
見間違いでもなく、そこは確実に濡れていた。
だけど、私は濡れてない。
ということは、彼は、私が濡れないようにしてくれたわけだ。
そこまで理解したところで、トクン、と身体の内から鼓動が。
あれ? 何で?
脈が、速くなってる。
彼の顔をちらりと見上げる。
その平凡な顔からは、なにか特別な事をしているようには見えない。
トクン、トクン。
また、鼓動が速くなった。
彼を見ていると、顔が赤くなってきた。
慌てて、顔をそらす。
耳まで赤くなってるの、バレてないかな。
『何でバレちゃダメなの? そもそも何で顔が赤くなってるの?』
もう一人のワタシが、私に問いかけてくる。
これは、そういうこと、なのかな。
きっかけなんて何でも良いと、理由なんか無いのだと、本には書いてあったけど。
これは、やっぱり――恋心?
だけど、すぐに明確な答えは出なくて。
今はただ、彼と相合い傘してる時間が、もう少し長く続けば良いと思いながら。
一センチくらい、彼との距離を縮めた。
fin.
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