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頬が切れる感触がした。
痛ぇ
――――――――
パチ
目を開けると目の前にはそれはそれは生暖かい暗闇が…
「って、待て待て待て!俺は食っても美味しくねえぞ!」
狼らしかった。
ダラーっと涎をたらしながら俺の首を狙っていた猛獣に寸でのところで気がついて、急いで体を捻る。
「――っと。あっぶねえ、文字通り寝首を掻かれるとこだった…っ!」
この瞬間だけ助かったからといって、狼との距離が離れたわけじゃない。
尚も唸り声をあげて狙ってくる狼の襲撃から逃れるために俺は地べたから跳ね上がって走る。
(狼に食べられて死ぬなんて真っ平御免だ!)
久方ぶりの運動はインドア派の俺には優しくなかった。
それでも学生時代に色々とやんちゃをやったお陰か、狼に追いつかれることはなくどんどん景色が流れていく。
ザザッザザッザッザッ
ガルルルゥゥウッ
諦めてもくれないけどな!
振り返るとバランスを崩しそうで恐いからしないが、あまり距離は離れていないんだろう。
狼の身体が周りの葉っぱにぶつかってする音が小さくならないから、そうだと推測できる。
右を見ると木
左を見ても林
前だって深緑
後ろに至っては狼だが、こんなに野性味に溢れている動物を見るのだって最近では稀だ。
そう、ここは森の中なのだ。
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