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僕達は勝った。
店のピーチリキュールが底をつき、レゲエパンチが売り切れとなった。店員がその事を伝えると部屋の中に居るみんなが歓声を上げ、拳を突き上げた。僕も思わず「やったー」と、大声を上げた。言った後に恥ずかしくなり、周りを確認する。隣に居る髪の長い優しい女性と目が合う。
「やったー」髪の長い優しい女性が叫ぶ。僕は、嬉しくなりもう一度「やったー」と、叫んだ。髪の長い優しい女性は、僕に気があるんじゃないか、と勘違いしてしまいそうな微笑みを見せた。僕は思う。隣に居るこの髪の長い優しい女性は、世界中に居る髪の長い女性の中で、ナンバーワンに優しいんじゃないか、と。
僕が、隣に居る優しさナンバーワンの女性と「やったー」の掛け合いをしてると、友人が僕の左肩を触った。
「おい、マジで楽しいな」友人が言う。
「ああ、こんなに騒いだの久しぶりだ」僕は言う。
「俺さ。ちょっと大袈裟かもしんねえけど、もう一生笑わねえんじゃねえかって思ってたんだ。いや、マジで」友人が真剣な表情を見せた。
「確かに、大袈裟だな」
「でもよ。ここに居る奴等は、俺の気も知らないで騒いでやがる」
「まあ、僕もだけど」
「僕って言うな、気持ち悪いな」
「うるせえよ」
「ありがとな」友人が言った。
「ありがとって言うな。気持ち悪いな」僕は言う。
友人が笑う。僕も、もちろん笑う。友人の笑顔が、これでいいんだ、と教えてくれる。
友人は、残り少ないレゲエパンチを持ち、立ち上がった。そして、今日のテーマソングである、ボブ・マーリーの「ノーウーマン・ノークライ」の、例の部分を歌い出した。
「エブリシンズ、ゴナ、ビーオールライト」
アゴヒゲと眼鏡も歌い出す。周りのみんなも歌い出し、わからない人も、少し出遅れながらも合わせるように歌う。
「エブリシンズ、ゴナ、ビーオールライト」
まあ、なんとかなるさ。歌詞の意味は、多分そんな感じだろう。友人が歌詞の意味を理解しているかわからないけど、友人にぴったりの歌詞だ。
隣のナンバーワンの女性も、笑顔で歌っている。僕は、ナンバーワンの女性を見つめ、酒の力を利用し「ねえ、番号教えてよ」と、言った。ナンバーワンの女性は笑顔のまま「今日、結婚したんです」と、言った。
新婦が何でここにいるんだよ、と思いながらも「おめでとう」と、僕は言った。
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