駅のホーム

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 五年と三ヶ月付き合っていた彼女にフラれた、と友人から連絡がきたのは、ずっと観たかった映画のDVDを再生しようとしていたときだった。いつもならこういう場合、出ないのだけれど、今回は出てしまった。  もちろん、その友人からの電話を出たのには理由があった。  友人がフラれる前日。要するに昨日、僕達は会っていた。その時も、僕は映画のDVDを観ようとしていた時だった。家のインターフォンが鳴り、僕はその音にびっくりし、警戒し始めた。それはまるで、野良猫が通りすがりの人を警戒するかのように。  警戒するにも理由がある。僕が住んでいるボロアパートに客が来ることは滅多に来ないからだ。来るとしても、新聞の勧誘か、NHKの受信料の支払いを求めにくる、50歳ぐらいの薄汚れたスーツを来た男が来るぐらいだ。身体を動かす体力ももったいないし、貴重な時間がもったいないから、その時も得意の居留守を使ったら。  もう一度インターフォンが鳴り、しばらくすると、今度は携帯電話が元気よく鳴り始めた。友人からの電話だった。 「居るんだろ?」 「居るよ」 「何で出ないんだよ」 「居留守してるから」 「出ろよ」 「出るよ」  僕は、重たくなりすぎた身体に、「悪いけど動いてくれるかな? 身体」と、自分の身体にお願いをし、玄関に向かった。
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