駅のホーム

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「結婚するぜ」友人は、靴も脱がずに言った。 「まあ、あがりなさい」僕は言う。 「結婚するぜ」友人は言った。 「らしいな」僕は言う。 「お前、もっと驚け、祝福しろ、そして羨ましがれ」友人が、やっと靴を脱ぎはじめた。「すげえだろ?」 「何が?」 「この俺が結婚するんだぜ。自分で言うのはおかしいかもしれないけど、俺、すげえ」友人は両腕を広げた。どういう意味だ? 「まあ、すげえよ。で、いつ式挙げるんだ?」 「わかんねえ」 「はあ?」 「まだ、言ってねえからな」 「何を?」 「彼女に、プロポーズ」  友人は、馬鹿なのかもしれない。いや、どうかしてるのだろう。プロポーズもしないで結婚出来るなら、僕でも三回は出来る自信がある。 「お前の彼女は、プロポーズもしないで結婚してくれる素晴らしい女性なのか?」 「お前は馬鹿か? プロポーズをしないで結婚してくれる女なんていねえよ。世界中探したって、ーーいや、いるかもしれねえな、イギリス辺りに。知ってるか? 世界って俺らが思っている以上に広いんだぜ」友人は、煙草に火をつけて、自慢げに煙をはいた。 「で、プロポーズは?」 「これからする」 「断られるかもな」 「んな訳ねえよ。あいつとは五年以上も付き合ってきたんだ。どこ探しても断る要素がねえ」友人は煙をはく。 「たいした自信だな」 「ああ。今、そのたいした自信が俺の背中に翼なって生えてきた。そして、天の声が聞こえてきた。プロポーズしてきなさい。さあ、その翼ではばたいて彼女の元に行くのです。お行きなさい、ってな」 「まあ、頑張れよ」 「お前はいつだってクールだな。凍え死ぬぞ」 「暖房あるから平気だ」 「じゃあ、行ってくるよ。式、絶対来いよ」 「ああ」  友人は煙草を灰皿に押し付け、はばたいて行った。  そして、次の日。要するに今日。友人から電話がきた。 「フラれた」
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