駅のホーム

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「レゲエパンチ二つ」友人は、男性店員に得意気に言った。  結局、知らない街には来たけれど、居酒屋はどこにでもあるチェーン店しかなかった。ただ、週末のせいか満席の店が多く、四件目でやっと空席を見つける事が出来た。「笑」の文字が付く名前のチェーン店にズカズカと入っていく友人の姿は、笑えない出来事に巻き込まれたとは思えない、とても勇敢な背中だった。 「いいか。今日はレゲエパンチに一途にいくぞ」 「一途なことは良いことだ」 「俺、あいつに一途だったんだけどな」  枝豆を食べる。 「そう言えばお前、ビール意外は酒と認めないんじゃなかったのか?」煙草に火をつけた友人に訊く。 「あいつ、レゲエパンチ好きだったんだよな」  枝豆を食べる。 「しかし、騒がしい店だな。居酒屋で騒ぐ奴って、大体合コンで頑張ってる男か、大学のサークルか、サッカーのサポーターだよな」奥の個室から大合唱が始まった。 「あいつ、サッカー好きだったな。ワールドカップ観に行きたかったな」  枝豆の皮を皿に投げる。 「あのさ。ちょいちょい元カノの情報出すの止めてくれないか?」 「いいじゃねえか。浸らせろよ。あいつの記憶に浸らせろ」友人は、口に入れようとした枝豆の中身を、ぽろっと落とす。 「枝豆も上手く食べれない奴が結婚なんて出来るか」 「お前、今日は結婚って言葉と枝豆って言葉は、二度と言うんじゃねえ」 「枝豆関係ないだろ。注文も出来なくなるぞ」 「そうだな。これで最後にしよう。枝豆は」 「馬鹿かお前。居酒屋に来て枝豆を注文出来ないなんて、拷問だよ、拷問」 「じゃあはっきりしようぜ。枝豆と、五年付き合ってすげえラブラブでーー」 「ラブラブなんて恥ずかしいこと言うなよ」 「お前、慰めに来たんじゃねえのか?」 「そのつもりだったけど、面倒くさくなった」  友人が、立ち上がる。僕も立ち上がる。お互い睨み合う。 「慰めろよ」 「面倒くさい」 「お前ーー」 「レゲエパンチでーす」金髪のつけまつげに気合いの入った女の店員が、このタイミングでドリンクを持って来た。テーブルに少し乱暴に置いて、速い会釈をして戻って行った。友人と僕は席に着く。 「いい店だな」友人が言った。 「ああ。ドリンクより先に料理が来ちゃうところとかな」  テーブルには、枝豆と焼き鳥の盛り合わせと、豚キムチとホッケが、冷め始めていた。
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