投扇興

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「もちろんマリアさんの方ですわ」 ミヤが級友たちに尋ねるとそのうちの一人が間髪を入れず答えた。見ればマリアは扇を丁度持っているとろこである。ひょいと得点表をミヤは覗く。 「まあ!マリアったらすごいのばかり!」 「マリアさんってばすごい手ばかりだされるんですもの。私なんて花散里ですのにマリアさんってば最初から若紫をおだしになるんですもの」 「そのあとも明石、空蝉。今はもう乙女か篝火しかおだしになりませんのよ」 少々興奮気味で級友たちは答える。 「あ、神父様、点数はですね…花散里が1点、乙女が30点、篝火が一番高くて50点ですわ。点数が高いほど美しい形ですのよ」 ミヤが横にいる神父にフランス語で説明する。 「そうかい…では一番難しいのは篝火かい?」 「いいえ」 尋ねた神父に答えたなはミヤでも級友でもなく今まさに扇を持っている神崎マリアだ。 「一番難しく美しいのは夢浮橋ですよ」 「夢浮橋?」 「ええ。扇が地に付かず枕と下に落ちた蝶の上にかかっているものですよ」 そう言うとマリアは扇を構えなおし、一瞬停止してからすっと扇を投げた。 ふわりと飛んだ扇は蝶を落とす。蝶はそのまま向かいの床に直立に立った。そして扇の要が枕の角に引っ掛かった。掛かったまま扇はゆっくりと落ちていき…蝶に触れた。誰もが息をのんだ。蝶は倒れることなく扇をささえ、また扇は蝶の上にあり地に少しも触れていなかった…正しく『夢浮橋』である。 「まあ!すごい!私初めて見ましたわ!」 「私もですわ!」 級友たちはより一層興奮したようにはしゃぐ。ミヤも興奮してすぐさま隣りの神父に話しかける。 「神父様!あれが夢浮橋ですわよ!ご覧になってください、ほら…扇が枕と蝶を結ぶ橋のようでしょう!」 .
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