第2章 悲しき魂の行方

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(私の不用意な発言が皆を死へと誘うことになってしまうかもしれない・・)  ただ、その場に立ち尽くすだけの自分の存在があまりにも無力に感じられた瞬間だった        *  どれだけの刻が経過したのだろうか?  張り詰めた空気の中で、非常灯に照らしだされた艦長やクルー達の表情は硬く強ばっていた  所属不明の艦隊は再度の交信にも関わらず、沈黙を保ったまま砲身をこちらに向け進路を塞いでいる 「彼らは一体、何者なんだ?照合リストに似た船籍はないのか?」  艦長、クリス・ティラーの言葉にクルーの一人コナー・リーダスが静かに首を横に振った 「Asp及びPalzival両艦隊照合リストに適合する船籍は存在しません・・・」  存在しない艦隊、それはラグランジュエリアでの新たなる驚異となりうる第四勢力の可能性を示唆していた  Asp、Palzival、Rapea、この三大勢力がラグランジュエリア内で艦隊能力を保持しているため、ある種の儚い均衡が保たれていた  その均衡が破られるということは争いの火種がさらに拡大すること意味している  それだけは避けなければならなかった  カズミ等を乗せた護送艦の目的はあくまで戦闘ではなく、Aspとの和平交渉を目的としているため必要最低限の武装しかされていない  それは和平交渉を行う条件としてAsp側から掲示されていたことで敵意が無いことを示すため評議会はそれを了承し、実行した 「戦闘になれば戦力差は明らかですから・・かなり、不利ですね」  副艦長ビリー・モリソンの言葉にクリスは評議員の一人でもあるカズミの手前、口にこそは出さなかったが正直、評議会の連中を恨んだ (敵地のど真ん中で殺してくれと言ってるようなもんじゃないか・・・ったく)  当初、評議会の決定にクリスは真っ向から反対した  今回のような事態までは考えていなかったが、Asp内も必ずしも協調性があるとは言えない状況だったからだ  [アイリスの悲劇]がそれぞれの人々の人生を変えたのは言うまでもない  クリス自身も例外ではなかった  彼はアイリスのAsp、Rapea臨時合同護衛船団の一員として周囲の護衛と警護を任されていた  だが、結果として誰一人、救うことが出来なかったのだ  目の前で大破していくアイリスを茫然と見つめながら、為す術のない無力さに艦内にいたクルー全員が悔し涙を飲んだ
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