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車に轢かれる時にテレビで流れる効果音は限りなく本物のそれに近い。 耳をつんざくようなブレーキ音に、頭だけを動かして振り返った。 暗闇に光るヘッドライトに目を細める。瞬きをした次の瞬間、光は目の前まで一瞬にして迫っていた。 身の危険を感じた時にはすでに遅かった。 刹那。体全体に刺さるような痛みが走り、妙な浮遊感に襲われる。 僕は今!? 冷たい地面の感触がおとずれる。浮遊感は数秒間のことだった。いや、本当は一秒もなかったのかもしれない。ただ体が感覚的にそう捉えたという可能性もある。それでも何が何だか全く分からないくらいの時間であったことは間違いない。 地面に落ち、何回転したか分からなくなるまで地面を転がされた。 意識が朦朧とし、体中から血が引くのが分かる。頭が万力で潰されているかのようにキリキリとする。 「あぁそうだった、いつもこうだ。僕は不幸だ、よかった日なんて一度もない」 声に出した言葉はかすれ、自分でも何を言っているのかも分からない。半分は無意識から出た言葉だった。 足音が近づいてくる。僕の近くで足音は止み、今度は若い男の声が聞こえてきた。何かを叫んでいるのだが、よく聞き取れない。 それも、だんだんと意識が薄れ、回りの音が聞こえなくなってきた。 意識が闇に飲み込まれる寸前、走馬灯のようにある景色が甦る。
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