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「おい。大丈夫か?」 男の声が聞こえる。 たぶんさっきの運転手だろう。 「血は出てない、大丈夫だ。今救急車呼んだからな」 轢いた張本人の声は、聞いたことのある口調に声色だった。 どこで聞いたんだっけ? 思いだそうとしても靄がかかったようにあやふやで、思い出せない。 体の節々が痛む。しかし、今僕に声を掛けている奴の顔が知りたかった。 ゆっくりと目を開く。 それに気が付いた男は僕に向き直り、見てはいけないものを見たかのように顔を驚かせ、そして歪める。 口にくわえられていた煙草は、開かれた口から落下した。 ほんの数秒のことなのだろうが、時間の流れが遅くなったかのように長く、何かを意味するかのようだった。 「おまえ、片桐……か?」 間違いない。 やっぱりこいつは田仲和(タナカカズ)だ。 忘れもしないこいつの顔。 クラスでいつも威張っては僕をいじめてきた奴だ。 時にはリーダー面をしていた奴の顔を忘れるはずかない。 段々と感情が高ぶってくる。 押さえ付けようにもとめどなく溢れでてくる。 ……今なら殺れる。
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