210人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい。大丈夫か?」
男の声が聞こえる。
たぶんさっきの運転手だろう。
「血は出てない、大丈夫だ。今救急車呼んだからな」
轢いた張本人の声は、聞いたことのある口調に声色だった。
どこで聞いたんだっけ?
思いだそうとしても靄がかかったようにあやふやで、思い出せない。
体の節々が痛む。しかし、今僕に声を掛けている奴の顔が知りたかった。
ゆっくりと目を開く。
それに気が付いた男は僕に向き直り、見てはいけないものを見たかのように顔を驚かせ、そして歪める。
口にくわえられていた煙草は、開かれた口から落下した。
ほんの数秒のことなのだろうが、時間の流れが遅くなったかのように長く、何かを意味するかのようだった。
「おまえ、片桐……か?」
間違いない。
やっぱりこいつは田仲和(タナカカズ)だ。
忘れもしないこいつの顔。
クラスでいつも威張っては僕をいじめてきた奴だ。
時にはリーダー面をしていた奴の顔を忘れるはずかない。
段々と感情が高ぶってくる。
押さえ付けようにもとめどなく溢れでてくる。
……今なら殺れる。
最初のコメントを投稿しよう!