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そこには僕にとっては運良く、田仲には運悪くか、(何の用途に使っていたかは分からないが)コンクリートブロックがあった。
これを使えば。
決めてからは早かった。
それを両手でゆっくりと拾い上げる。
殺せば指紋が残ってすぐ捕まる恐れもあったが、今の季節は冬で、幸いにも手袋をしている。
後ろを向きながら赤ちゃんのように四つん這いで歩く田仲目掛けて、体重を乗せて振り下ろす。
骨の砕ける音がした。
かつてここまで良い音を聞いたことがあっただろうか。頭蓋骨が簡単に、そして完全に割れた音は、人間は意外と簡単に死ぬものなんだなと感じるのには丁度よかった。
割れた頭から飛び出した血が自分の顔に吹き付けるように掛かる。
血特有の、鉄の錆びたような臭いにむせかえりそうになった。
しかし、それも嗅いでいるうちに、とても気持ちの良い臭いのように感じる。
殴られた田仲は白目を剥きその場に倒れる。
まだ体がピクピクと痙攣していた。
「なんだ、死んでないのか」
もう一度コンクリートブロックを振りかぶり、叩きつける。
さっきと違い、あまり手応えを感じなかった。みかんを手で簡単に握り潰すような、そんな感覚。
今度こそは終わっただろう。もう痙攣もしていない。まるで糸の切れたマリオネットや人形のようだ。
一息着き、コンクリートブロックを投げ捨てる。
手の震えが止まらない。
しかしそれはやってしまったという後悔からではなく、快楽、快感などの喜びからくるものだ。
「たまらないよこの感覚」
誰にも見られてないよな。
人通りの少ない道で、電灯も疎ら、夜も遅い時間だったので目撃者もいない。それに周りは雑木林、好んでこんな所にくる奴もいないだろうし。
警察なんかに捕まってたまるか。こんな楽しいこと止められない。
洋服で簡単に血を拭う。
ふと自分の顔が車のサイドミラーに映ったのを見て、今の自分の顔が気になった。
醜い顔だ、これは本当に自分の顔なのだろうか? 人の皮を被った鬼……そんな表現が正しく思えた。
「さあ、パーティーを始めよう。楽しい、一生もののパーティーを……」
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