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普通。それが、僕の記憶の果てに一番当てはまるだろう単語だ。
立地条件の良い一軒家に住み、家族や近所、友人トラブルも何もない。父さんは定時で帰ってくるし、母さんはいつも僕に優しかった。
完璧と言える程の普通は、幸せと同義だ。それを子供ながらに理解していたあたり、これこそが間違い無く“幸せ”だったんだろう。
親孝行。この頃は言葉の意味すら理解していなかったが、それすら果たそうと誓っていた。
───“それ”は、いつもの朝に起きた。
朝御飯を作っていた母さんが、コーヒーを飲んでいた父さんが、流される砂の城の如く“消えた”。
向かいに座っていた僕はテーブルの影になった二人を見た。
そこには何も無かった。影も形も何も無い。
両親の体が崩壊したという過程、何も残さず消失したという結果。原因は不明なまま───
ただ、空虚だけを残して。
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