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一斉に――紅の花びらが視界を覆い尽くした。
齢十一を迎えたばかりの少女は茫然自失として、異様な空気に置き去りにされた。
少女の白銀の髪、白い肌、膝丈のワンピースドレスにも飛び散る。
足元が誰かの赤い液体でみるみる囲まれ、思わず片足をあげた。
汚れのない白壁は人が歪な十字架を作り、そこから無数の血潮が脈を打っていた。
大理石の廊下は細長い川が道を伝う。
複雑に繋ぎ合っては、分裂する。
目前の急変に少女は為す術もなく、狼狽するしかなかった。
「レオ」
聞き慣れた声に見上げ、相手の姿に瞳を輝かせた。
「アリス姉さま!!」
緩やかなうねりを帯びた淡い金髪の少女が廊下にいる。
誰もからも愛されるアンティークドールのような容姿は、いつだって両親の自慢。
安堵は片手から零れた雫で疑念にすり替わる。
姉の右手に握られた短剣。
紫陽花を表現したワンピースに着いた血が真新しい。
「ね、姉さま……」
刃を伝い、こぼれ落ちる赤い雫は点々と軌跡を記す。
「レオ、こっちにおいで」
普段と変わらずに微笑し、アリスは少女に手を伸ばした。
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