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側へ行けば、今より恐ろしい事態が降りかかる。
レオはアリスを座視したまま、立ち竦んだ。
その様子にアリスは不意に笑みを消した。
濃い桃味を帯びた赤い――紅桃の瞳が細くなる。
「気づいたの……。子供(ガキ)のくせに賢い子は嫌いよ」
覚えのない殺意に身体を震わせると、アリスがつま先にあった肉塊を蹴った。
緩やかなカーブを描いて降下した物体――血気を失った白い指。
記憶に残る、紅い石を宿した金の指輪。
脳裏を美しい母の姿が横切った。
紛れもなく、母が毎日磨いていた指輪だ。
悲鳴にならない叫びは喉奥で絡みつき、口を手で覆う。
ほんの数分前まで抱きしめて庇ってくれた、人。
見る影もなく変わり果てた肉親を前に、恐怖感が襲った。
アリスの薄笑いがまるで悪魔のように重なる。
刻々と縮まる距離に我に返り、動かない身体に焦燥感が誘う。
「どうして……」
振り絞った声が震えてるのが、嫌になるくらいわかる。
根深い殺意を隠した瞳に怯えた少女の姿が映る。
「どうしても欲しいものがあるの。得るには、あなたが邪魔になるわ。――消えて」
美しい天使は死を告げ、嬌笑して詰め寄る。
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