楽園ノ失墜.~0~

4/5
前へ
/346ページ
次へ
 気がつくと、その場から全力で疾走していた。 道端に横たわる屍に目もくれずに、一心に。 ―――― ――――――  鐘が挽歌のように流れて国中に響き渡る。  不思議と涙は出てこなかった。  永久の栄光を誇るはずの、面影ももはやない城下町を通り抜け、丘陵地を目指して走る。  息は絶え絶えで苦しい。  脇腹が刺すように痛い。  足の関節が悲鳴をあげ、芝生に転倒しては、立ち上がる。 「っ……」  刺すような痛みに耐えながら頂上に辿り着くと、下界の惨劇とは裏腹に澄んだ青空が視界一杯に広がった。  いつも我がままを聞いてくれた、病弱で優しい優しい姉。  アリスが大好きだった。 子供の理想を押し付けた結果だとしても。  仮にも王家を影で護る一族が亡国に加担するなんて。  丘陵地から王国を一望する。 穏やかな風が妙に、気味悪い。  生まれ育った国が赤い業火に包まれ、時間の経過と共に澄んだ水に沈んでいく。 「――――か?」  怜悧な声が背後から響き、レオは驚いて振り向いた――。image=384766525.jpg
/346ページ

最初のコメントを投稿しよう!

113人が本棚に入れています
本棚に追加