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真昼だというのに陽光が射し込まない、鬱蒼とした森で青年は探す。
茶味のある赤銅色の髪が冷風に弄ばれる。
「お嬢様ー!」
声は虚しくも、深淵のように深く吸い込まれていく。
赤と橙の混合した瞳は彼女の姿を求めていた。
「まったく……。勉強の時間はとっくに過ぎてるというのに」
青年は倦厭の情を抑え、周囲を見回す。
足を一歩踏み入れる度、地に点綴する原石が圧砕して低く木霊する。
鳥の声はおろか、蝶や虫の姿は一匹もない。
外では情熱的な色が庭を彩るものだが、永遠に近しい間、手入れをしないとこうなるのだろうか。
新緑とは縁遠い、石の墓所。
かつては翡翠の鉱石場として発展したらしい。
現在は柱状に剥き出した岩石が連なり、見るからに殺風景だ。
資産家である主の土地の一つであり、彼女にとって絶好の隠れ場所になっている。
あちこち手探り状態でさまようこと、かれこれ一時間弱。
広漠とした森に気落ちし、休憩をとろうと岩石に座った刹那。
森には不釣り合いな歌声が耳に届いた。
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