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ラウレナ大陸の南方の港街、ヴィナシエ。
港には大小様々な船が出入りし、街は漁師や旅人などが賑やかに行き交う。
その街のとある通り。
「う~ん。潮の香りってやっぱり落ち着く」
大きく伸びをしながら言うのは、明るい金髪を緩くふたつに結んだ、青い瞳の少女――ティエナだ。
「……って、ルウ?」
すぐ隣を歩いていたはずの連れの姿がなく振り返ると、通りの隅にうずくまっているのをみつけた。
「大丈夫?」
近付き顔を覗くと、青白い顔で力無い笑みを返された。
「……平気……だから」
「全然平気な顔じゃないわよ! 潮の香りに酔ったんでしょう?」
「……ごめん……」
「謝らなくていいわよ。ルウ、海は初めてなのね?」
ルウ、と呼ばれたのは、肩にかかる亜麻色の髪と茶色の瞳の少年。ルウディーである。
相変わらず小柄な体格と優しい顔立ちは、一見少女のようにも見える。
「どこかで休めば少し良くなると思うんだけど……」
ティエナはルウディーの背をさすりながら辺りを見回した。
ルウディーよりひとつ年上の彼女は、旅にも潮の香りにも慣れていた。
「ダーナと別行動は失敗だったわね……。私じゃ、ルウを運ぶなんて無理だし……」
今は側にいないもうひとりの連れを思い、ため息をつく。
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