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脈を測ったわけではない。呼吸を確かめたわけではない。
そばに近寄ったわけではない。
だが、見ればわかる。
あれで生きているわけがない。
死んでいて当たり前の状態なのだ。
「ふむ、まだ完全には扱え切れねぇよな」
と、四○メートルほど離れた場所にルシフェルが降り立った。
罪悪感がある様子もなく、淡々と惨状を眺め、淡々と思案し、淡々と告げた。
その姿に、月島は怒りを覚える。
特訓と言っておきながら、大神黒斗を殺した大男。
「なんてことをするんですかっ!!大神くんを…大神くん返してっ!!」
瞳いっぱいに涙を溜めて、犬歯を剥き出しに殴りかかるように叫ぶ。
抱えるエレナを振りほどこうと必死に暴れるが、見た目に反して強い力に振りほどくことを許されない。
目の前で人が死んだ。殺された。
止める暇さえなかった。止めることさえしなかった。
前を向いて歩く貴方の背中を眺めているだけだった。
死地に向かう貴方の背中を眺めているだけだった。
仲の良かったクラスメイトが。
昔から気になっていた男子生徒が。
大好きな大神黒斗が。
目の前で、殺された。
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