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黒斗は自分の病室に戻ってきた。
病室内では無表情の金髪少女、エレナが林檎を食べている。
「エレナ、悪いけど退院するわ」
着替えを手に取りながら言う。
少女は金色の瞳だけを動かし、黒斗を眺めた。
この病院は魔法に関わっている機関の一つらしい。
院長が名のある治癒魔導師で、医学にも魔法学にも精通しているというのだ。
“黙示録の悪魔”という化け物によって機能不全になった左腕を治療したのもその人だ。原因解明には至らなかったが。
「了解した。私から報告する。しかし大神黒斗、貴方は何処へ?」
エレナの背面で着替える黒斗は、なにも答えない。
恐らく、本当のことを言えばこの少女は止めるはずだ。
仲間を傷つけた者を見つけ出すなんて。
だから黒斗は答えない。
まだ、答えない。
「大神黒斗?」
「……、後から説明する」
着替えを終えた黒斗はそのまま病室を出ていく。
決して少女を振り返らずに、ただ一つの目的を持って歩む。
昨日の泣き顔は忘れない。
自分のために泣いてくれた少女に、これ以上心配をかけたくはないが、今回ばかりは仕方がなかった。
ブルックの右腕を消した者を許すわけにはいかないのだ。
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