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病院を出て、適当に道を歩いた。
かれこれ三○分くらいだろうか。気がつけば、駅や大型デパートや商業ビルやビジネスホテルが鎮座する街中にいた。
辺りを軽く見回せば、夏休み中の学生が夜遊びをしていたり仕事帰りのサラリーマンが飲み会から帰る途中だったりと、八月初頭夜の雰囲気だ。
だが、人混みの中に銀髪の人間はいない。
そんな簡単に見つかるとは思っていないが、一番人が集まるここにいないとなると、捜索範囲は爆発的に広がる。
一○時間以上前だ。もう街の中にはいないかもしれない。
けれど、魔導師がこの辺りに現れるなら、自分を狙ったものではないのか、と黒斗は思う。
(伊集院先輩に協力を――)
携帯を取り出し、慣れた手つきでアドレス帳から一人の名前を導き出す。
しかし、そこで通話ボタンを押す指が止まった。
(――ダメだ。迷惑はかけられねぇ)
時刻は深夜二三時を過ぎている。
これから呼び出すのは余りに非常識だ。
彼は携帯を閉じて駅前から移動した。
とりあえずもう少し探してみよう、と周囲をよく確認しながら歩いていく。
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