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被告人のはなし
これは自殺ではありません。
俺なんかが自殺するためだけに、三人もの命を奪っただなんて、そんなことはあっていいはずがない。
人を三人も殺してしまったから、死にたくなっただけなんです。
でも自殺なんていう選択肢はどこにもなかった。
そんな結末は、きっと誰も望んでいない。それは罪からも罰からも逃げたことになる。
それに俺が手前で勝手に死んだら、遺族は誰を憎めばいい?
憎しみをどこに向けたらいい?
だから死刑にならないといけなかった。
控訴をしなかったから、諦めだと思われただろうか?
自殺だと思われやしなかっただろうか?
さらに憎しみが増して、俺を――…殺したいだなんて、思ってやしないだろうか。
……大丈夫。ここにいる限り、俺は殺されない。あの人達が罪を犯してしまう心配はない。
大丈夫、大丈夫。
俺を殺したい気持ちより、顔も見たくないという気持ちの方が大きいはずだ。
家族ですらそうなのだから。
……面会に来る人間なんて、とっくにいなくなってしまった。
だけどこれでいい。俺は世界で一番不幸にならなくちゃいけない。
看守にはゴキブリを見るような目で見られて、食事にはたまにゴキブリが浮く。
それをトイレに流して、絞首台の恐怖に震えて眠る。
明日はもっと不幸でありますように。
そしてみっともなくいくばくも無い生にしがみつく。
十三階段を昇りきるまで。
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