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その日はマイルとも会わず、変に気を遣う事もなく、勤めが終わった。
帰り、暗い夜道を1人歩いていると電信柱の下でたむろしている輩に出会った。
最近、物騒なのが多いので道を変えようとした。
その時、話している言葉が少し聞こえた。
「おかしいな、ここにいるはずなんだがな」
「我々の動きに気づいて逃げ出したか?」
「そうかもしれんが、まぁいつでも追えるさ。奴には発信器が埋め込まれているからな」
「ああ、あれか。生け贄になる子どもの体に生まれてすぐ埋め込む」
アヴィンは恐ろしくなった。話の内容からして、ウルト村の連中だ。しかも発信器…生まれた時から自分は生け贄だった…その事実を知って愕然とするのだった。
幸い暗闇で電柱の明かりの届かない場所にいる自分には気づいてないみたいだったので抜き足差し足でその場から逃げ出した。
そして途中からは走った。
畜生!畜生!最悪だ!何で俺が…?!
無我夢中で辿り着いたのはボルドゲイド先輩のアパートだった。
ベルを必死に鳴らし、返事を待った。
しばらくしてボルドゲイドが出て来た。
「こんな夜中に何だ?」
ボルドゲイドは寝ようとしていたのか機嫌が悪かったが、アヴィンの様子を見て止まった。
「俺…もうダメかもしれません」
アヴィンは泣いていた。何が悲しくて泣いているのかはボルドゲイドには解らなかったが、「まぁ、上がれよ」と言って泣いているアヴィンを部屋に入れる。
その夜は自分の不幸な宿命に抗えない事実を知った夜であったが、アヴィンはボルドゲイドにはその事を話せなかった。
ボルドゲイドは話す気がない客を相手にしても意味がないと悟り、「マイナス思考は寝れば直る。明日も早いし、早く寝ようぜ」と肩をポンポンと叩いて布団へ誘う。
それでもアヴィンは布団の上に座り泣いている。
ボルドゲイドも心配していたが、そのうち付き合い切れないと寝てしまった。
アヴィンは1人起きたまま
「あの村に生まれなければ」
「何故、生け贄の順番が来た家に生まれたんだ?」
「村総出で俺を犠牲にして繁栄しようとしている」
「自分が可愛いから他人はどうなってもいいのか?」
頭の中でそう言った、後悔とも怒りとも言える感情がどんどん沸いて来て自分にプレッシャーを与え始めた。目が冴えて眠れない。
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