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「トイレ…」
アヴィンは尿意を催しかわやへ立った。
排泄が済むと、かわやの横にある洗面台で手を洗った。
ふと鏡を見ると、鬼のような形相をした自分がいた。
「何て顔してんだ…畜生」
アヴィンは我に返った。夜道で偶然出会った村人の言う事を間に受けて逃げ出し、今、こうして他人の部屋に転がり込んでいる。しかもここに来た当初、泣いてばかりで訳を話さなかった。
何て勝手な奴だと自分が情けなくなった。
周りは守ってくれる人たちばかりなのにそれを忘れて1人で抱え込んでいる自分が馬鹿らしくなった。
明日、早く起きたら朝一にボルドゲイドに打ち明けよう。自分の体の秘密を。
―次の日―
「あの…」
「何だ?」
「俺、聞いちゃったんです」
「何をだよ?」
「昨日の夜に帰り道に俺の故郷の連中がいて…」
「躊躇わず早く話せよ」
「…言いにくいんですが、俺って生まれた時から生け贄だったんです」
「それで?」
「俺がいくら逃げても俺の会社があいつらわかるじゃないですか、あれは…」
「発信器でもついてるのか?」
ここまで来て、言葉に詰まった。が、
「はい」
目をきつく閉じ、そう返事をする。
目を閉じていたので、ボルドゲイドがその時どういう表情をしていたかは解らなかったが、彼はアヴィンの頭をぽんぽんと軽く叩いて
「大丈夫だ。例え発信器が付いていても、お前のおかしい村の連中より普通の人間の方が世の中には多いから、いざとなったら周りも一緒に戦ってくれるさ。安心しな」
と言って慰めてくれた。
アヴィンはやっと目を開ける事ができた。
そうだ。自分はあの変な仕来たり、変な人間、変な教えの中で生きてきた。だからあれが全てだと思っていたが、ボルドゲイドが周りが話すにはおかしい事なのだ。味方は会社内だけでなくあらゆる場所で作れる…そう言った兆しが見えてアヴィンは嬉しくなるのだった。
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