11人が本棚に入れています
本棚に追加
私の家は昔は商売をしていた。
でも基本的に遊び好きだった父が店をつぶした。
一家は同じ区内の父の実家近くに引越し、父は自営業から勤め人に。それまで店を手伝っていた母も本格的に仕事に出るようになった。
ある朝、小学校に登校する道すがら、前方に見るからに恐持てのオジサンが二人立ちはだかった。
「お嬢ちゃん、お父さんはお家にいる?」
私はあまりの唐突さと怖さに押し黙った。
通学路だったのでみんなから好奇の目で見られる。
「お父さん、お家にいるかな?」
「どこか仕事に行ってるの?」
優しく言ってるつもりだろうが、優しい人なんかじゃないことぐらい子供でも判る。
「いません。」と言って逃げるようにして通り過ぎた。
本当は父は家にいた。けれども子供ながらに、あのオジサン達にパパがどうにかされるような気がして嘘をついたのだ。
「知ってる人?」一緒に歩いていた友達に聞かれたが、
私はドキドキしたまま首を横に振るのが精一杯だった。
その日一日、まんじりともしない気分で過ごし帰宅すると、窓ガラスが割られて家の中にゴツゴツした大きな石が投げ入れられていた。
私は声にならない悲鳴をあげた。
父は無事だったが、借金取りから逃げていることを知って、私はたいそうショックを受けた。恐ろしい思い出だ。
今、私はクレジットカードは一枚しか持っていない。それだってキャッシング機能は付加しなかった。
小さなころの恐怖体験が今の私をそうさせた。
ついでに言うと、
クレジットカード会社の取り立て(電話オペレーター)の仕事をしたこともある。
借金を取り立てられる方から取り立てる側になったのだ。
人生って面白い。
でも、だからといって「本当に気分が良い。」とは思えなかった。
世の中、不景気でお金が払えない人なんてゴマンといるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!