序章

6/6

63人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
男達が走り去るその背中を、青年は静かに見ていた。その眼光に宿る鋭利な殺意と向けられた相手を圧倒する威圧感を纏った雰囲気は消えることなく、その場の一帯を覆い尽くしていた。 だが、その中でただ一人、少女だけには違う形で青年の姿は映っていた。 午後の陽射しに照らされる、僅かのブレも無く一点を見詰める視線、その横顔。男の子と自らの命を救った鮮やかな閃光の如き速さと寸分の誤差も無い正確さ、骨すらも容易く断ち切る威力の、三つ全てを兼ね備える斬撃。 相対する者全てを恐怖の底へと突き落とす、青年がその身に纏う威圧感さえも、少女には、ただ憧れにも似た尊敬の念と頼もしさを胸に抱いていた。 それと同時に── (この者とならば……きっと……) ──少女は一つの確信も感じた。 だが、しかし、今はまだ誰も知らない。 この出会いが、後に世界を激動の渦中へと導く事を。 そして、この二人の名を未来永劫深く歴史の中に──人々の記憶に刻まれる事を。 少女の名はテオドラ・エリクシール、青年の名はエッジ・ラインハルト。一人は『エリクシールの戦姫』、もう一人は『エリクシールの死神』と呼ばれる事になる。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加