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風が寝着を纏った義高の肌を柔らかく撫ぜる。
日中は暖かくなってきたがやはり、まだ夜風はヒヤリと冷たい。
縁側に腰掛け、義高はぼんやりと冷ややかな明け方前の空を見上げた。
煌々と照らしていた月は為りを潜め、星々は眠たそうに僅かに瞬く。
(……陽が明けるまで一刻ほど、か)
寝付きが悪く、夜風に当たって気分を落ち着かせようと縁側でぼんやりと空を眺めていたのだがどうやら、今から寝ることは無理なようだ。
小さく義高は息をつき、質素だが綺麗に手入れされた庭園へと視線を移した。
縁側からの箱庭は母屋に比べると小さいが、立派な桜が植えられている。その桜を義高はじっと見上げた。
風に遊ばれ、花びらを散らす桜。
ゆるやかな月明かりの射幸に照らされて、白い花びらが舞う姿はとてもは儚げで義高の心を揺さぶった。
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