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「……父上」
義高は瞼を伏せて、別れた父、木曽義仲(源義仲)へと思いを馳せる。
源頼朝の機嫌を損ねないように、義仲の枷にならぬように気を張りすぎて、なかなか緊張が解れず、寝付けなかった。
十一を数えた義高は木曽義仲の嫡男として、源頼朝の長女である大姫と許婚するために鎌倉にやって来た。しかしそれは表向きでしかない。
義仲と頼朝は共に源氏の一族で従兄弟の関係にあるが、両者は父祖の代からの因縁もあって仲が悪い状態だった。しかしそれを抑えて、平氏打倒に共に挙兵を挙げた。
だがしかし、寿永2年(1183年)2月に関係が悪化を辿ってしまったのだ。
それを打開すべく打ち出されたのが、この度の婚姻――表向きな和議である。
義仲の嫡子、義高を人質として鎌倉に送る事で頼朝との対立は一応の決着をつけたのだった。
しかしそれさえも布石でしかない。
朝廷を掌握し始めている頼朝は、義仲の嫡男、義高を大姫に許婚することで人質とし、義仲を牽制しようとした。
反対に義仲はこの申し出を受けることで和睦の意思を見せるが、義高に頼朝の動向を探らせるという間者の役割を課したのだ。
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