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義高の小さな背に重圧がのし掛かる。
幼きを言い訳には、できない。
嫁婿として、そして間者として、両陣にとって異に沿わぬ振る舞いをしなければいけない。
義高は俯き、強く、その小さな拳に力を込めた。そのときだった。
「……義高さま?」
物思いに耽っていた義高は呼びかけで我に返り、鈴を転がったような声音へと首を巡らせる。
「姫!? このような刻に共も連れずに、何故?」
舌足らずな子供特有の可愛らしい声でわかっていたが義高は驚きを隠せず、問いかけた。
義高がいた縁側に繋がる回廊に、夜着の上から申し訳なさげに羽織っただけの大姫がいた。
「えへへ。義高さまに会いたいな、と思って来てしまいました」
数えで六になった無邪気で可愛らしい源頼朝の長女、大姫は義高の元へと花が咲いた笑顔を綻ばせる。
当初こそ、義高は大姫に心を開かないように接していたが、幼い大姫は義高の孤独を優しく癒してくれる掛け替えのない存在となっていた――自分の役割を忘れてしまいたくなるほど。
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