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「……父上の言葉を思い出していたんだ」
桜へと視線を送り、義高は言葉をこぼした。
大姫は不思議そうに大きな瞳を向ける。
「義高さまのお父様? 義仲さま?」
義高は大姫に頷いて見せ、中庭へと足を下ろした。
「――木曾の男なら 桜の様に生きよ」
桜の木を見据えて、義高は一歩ずつ歩み寄る。
「散り逝く姿さえも美しく 気高くあれ」
薄闇夜から空が白じみ、青が広がり始めた――夜が明けた。
義高は幼い頃から聞かされ続けた言葉の意味を悟った。
涙を堪えて、桜を睨む。
揺れる薄幸の花びらが舞い落ちる。その儚さに愛しさを覚え、強き生きざまを目に焼き付けるように、義高は感情の波が収まるまで見つめ続けた。
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