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腕時計の時刻を確認して谷と同じようにさらっと帰ろうと思い、騒がしい塊からさりげなく離れた。
あんなに酔ってるんだ。一人消えたって誰も気づかない。
「帰んのかよ」
いきなり路地裏から伸びてきた手に俺は捕まり引っ張られた。
掴まれた手首は熱く、香った香水はあの夏を思い出した。
「…なんだよ」
俺はゆっくり掴んだ奴を睨みつけた。
桐島匠。
俺にこんなことするのはコイツしかいない。
「付き合え」
桐島匠は俺に有無を言わさず歩き出した。
香ってくる香水と掴まれた手首はまるであの頃と一緒で俺は胸を震えさせた。
期待していた。
同窓会に来た理由なんて言えない。
俺は期待していたんだ。
コイツに無理やり連れ去られるのを。
桐島匠に。
俺はポケットの中にある携帯の電源を落とした。
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