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「柳くんは今日のクリスマスツリー見たことある?」
桜が話し掛けてきたので、
僕は心臓をバクバクさせながら(表面上はあくまで普通に)答えた。
隣で椿と楓がぺちゃくちゃと新喜劇よろしく漫才を繰り広げている。
「まだないなあ。
すごい綺麗だっていうのは聞いてるんだけどね。」
今日見に行くクリスマスツリーは京都駅の構内にあり、毎年豪華な飾り付けをすることで有名だった。
特に夕方6時からのライトアップは、見なきゃ一生後悔するぐらいだという。
それを聞いた椿が京都駅で買い物&ツリー観賞を言い出したのが今回の始まりだ。
たぶん買い物は楓が言い出したんだと思うけど。
「私も見たことないの。
高校生のとき一回友達と見に行こうってことになったんだけど、中止になっちゃって。
で、そのときにちょうど失くし物しちゃったせいで、実はあんまりいい思い出ないんだあ。」
「失くし物って?」
と僕が尋ねると、桜はバッグにつけているストラップを見せてきた。
赤色の毛糸で編まれた、缶ジュースほどの大きさのクマのあみぐるみが白い糸でバッグに付けられている。
「これ、中学生のときに15歳の誕生日にお母さんが作ってくれたの。
本当はもう一つ、これの青バージョンがあったんだけど、そっちの方をなくしちゃったんだ。」
と、桜は少し寂しそうに笑った。
それを見て、僕は胸のあたりにトゲが刺さったような感覚をおぼえた。
桜のそんな顔、見たくないよ。
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