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「編みぐるみ、無かったね……。」
プラットフォームを探し、駅員に落とし物がないか確認したが、編みぐるみは見つからなかった。
「買い物してる間に落としちゃったのかなあ……。」
「いや、桜はずっと僕と椿の前にいたから、何か落としたりしてたら気づいたはずだよ。
ゴメン、もっと早く気づいてれば見つかったかもしれないのに……。」
「そんな、柳くんは悪くないよ!
……それに、もう、いいの。」
「いいって……?」
「編みぐるみ。
これだけ皆探してくれたんだもん、きっともう見つけられない。
電車に落とし物で編みぐるみがあったら駅員さんが連絡してくれるみたいだし、
もうみんなでツリー見に行こうよ。
ライトアップ、始まっちゃう。」
「でもあれ、桜の大事なものなんやろ?
もうちょい探して…。」
「いいの。
またお母さんに作ってもらうし、今日はライトアップを楽しみに来たんだから!
さ、急がないと!もうあと5分ぐらいしかないよ~。」
と、桜が急かすので4人はツリーに向かって歩きはじめた。
桜、無理してる。
ずっと見てたから分かる。
桜があの編みぐるみをどれだけ大切にしてたか。
でも、それでも僕は桜を止められなかった。
今日という日を楽しみたい、
嫌な思い出になんかしたくないっていう桜の気持ちを裏切りたくなかったから。
きっと椿も楓もそれを分かってるんだろう。
あの二人が楽しげに話し始めた。
つられて笑う桜の横顔が、やっぱりどこか寂しい。
そしてまた僕は、胸に痛みを感じたんだ。
僕たちがクリスマスツリー会場に着いた頃には、もうすでに沢山の人だかりが出来ていた。
そしてツリー前のステージのようなところで、サンタのコスプレをした若い女性が司会をしている。
「皆さーん!今日のメインイベント、ツリーのライトアップの時間がやってまいりましたー!」
「ギリギリ、間に合って良かったね。」
と、桜がこっちをむいて笑いかける。
僕はぎこちない笑顔で返すことしかできなかった。
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