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古泉は、俺のことを嫌ってるわけじゃない。
それはわかってる。
「どうかしました?」
「え?」
どうやら、俺の番が回ってきていたらしく、俺は慌てて黒を置き、古泉の白をひっくり返して味方にした。
その間にも、駒を取り落としたり滑らせたりしてしまい、それを見た古泉が、また心配そうな目で俺を見つめる。
「何か、悩み事でもあるんですか?」
「いや、何でもない、何でもないから」
この会話だけでも、古泉は、きっと俺のことを嫌ってるわけじゃないと思う。
逆に、思いこみかもだけど、好かれている気さえする。
ただ…
「古泉君!」
扉の外から、舌っ足らずな、俺が待ち望んでいた上級生の声が、古泉の名前を呼ぶ。
けれどこのときだけは、朝比奈さんの声に眉間にしわを寄せてしまった。
「9組の女の子が、呼んでますよ!」
慌てて顔ごと眉間を手で覆い、気持ち悪いフリをして窓の方に駆け寄った。
「キョ」
「一樹君!」
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